ROM測定は理学療法士の基本的な検査測定技術
実習中、必ず経験するであろうROM測定。
学生さんにとっては、初めて患者様に触れる機会でもあり、とっっっても緊張する検査の一つですよね。
友達や親族などのいわゆる”健常者”を相手に練習していたときとは異なり、実際に痛みや可動域制限のある患者様を相手に測定したあの感触と緊張感は、実習を終えて何年も経った今でも鮮明に覚えています。
さらに、学生さんにとっての大きなの悩みは、臨床教育者(指導者)からはその姿をチェックされ、反省点のフィードバックを受ける。。。という点です。
このように、なかなか過酷な環境でROM測定をすることを強いられる実習では、いくら練習を積んできたとしても、本来の力で円滑に行えないのも当然ですよね。
ただ、
患者様への配慮も!
臨床教育者へのアピールも!
なんて考えていたら、身体がうまく動かなくなってしまうのが目に浮かびます。
そこで、今回はROM測定をする際に臨床教育者が実習生さんのROM測定時に、どういったところをチェックしているのかの例をまとめました。
これらを頭に入れながら、ROM測定の練習をしていくことで、ROM測定の技術も向上するので、ぜひお試し下さい。
ROM測定の基礎
では、まずROM測定の基礎から復習していきます。
ROM測定とは
ROM測定とは、四肢・体幹の各関節を他動的に運動させた場合の可動範囲を測定することを指します。
原則は他動的に運動させた場合の可動範囲を測定しますが、部位によっては自動的に運動した場合の可動範囲を測定することもあります。
ROM測定の目的
・障害の程度の判定
・ROM制限因子の特定
・治療目標の設定
・治療効果の判定
ROM測定からわかること
上記の目的を学生さんにもわかりやすく噛み砕くと、ROM測定をすることで以下のようなことがわかります。
・関節が可動する範囲
・関節障害の程度
・痛みの程度
・筋力の程度
・脳神経障害の程度
・生活への影響
・認知機能の程度
・可動域を制限しているのはどの組織か
・改善可能かどうか
・改善したかどうか
など
これらのわかることを参考にしながら、セラピストは理学療法を提供しています。
なので、この評価が曖昧であればあるほど、セラピストの提供する理学療法はテキトーなものになってしまいます。
つまり、結果として、患者様の回復への道を遠回りすることに繋がるのです。
そのため、セラピストは正確に、かつ、再現性を持って行う技術を求められます(ROM測定に限らない)。
ROM測定時の注意点
これは以前の記事をご参照ください。
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【評価項目】関節可動域(ROM)測定・訓練の際に注意しておきたい11個のポイント。
理学療法士の基本技術『関節可動域(ROM)測定・訓練』について 理学療法士の技術のなかで最も高頻度で用いられる関節可動域測定・訓練。 この検査・測定・治療を如何に丁寧にできるかで、理学療法士としての腕 ...
実習生さんがROM測定をする際に臨床教育者からチェックされるポイントとは?
さて、ROM測定の基礎を復習したところで、ここから実習生さんがROM測定をする際に臨床教育者からチェックされるポイントを10コ紹介していきます。
ROM測定時にチェックされるポイント①「目的は明確か?」
なぜ、その箇所の関節可動域を評価しなければならないのかという目的を明確にしておきましょう。
たとえば、THAの術後の方に対して股関節の可動域を評価する目的は”手術の影響を把握するため”などのように明らかですよね。
しかし、その方に対して、足関節や膝関節、体幹のROMを評価する目的はなんでしょうか?
別に評価しなくても良いのでは??
…そういうわけにもいきませんよね。
多くの場合、手術した関節の周囲にも何らかの影響が及んでいることもあります。
また、手術の経過次第では、その周囲の組織で代償していくことも考える必要があります。
そういったこともあり、臨床では症状の出ているところ以外のROMにも着目して評価を行うことがあります。
このことに関して評価される側として患者様は疑問に思うこともあるでしょう。
その時に、なぜここのROMを評価しているのかという目的を答えることができなければ、それは”無駄な評価” ”無駄な時間”であると判断されてしまいます。
しっかりと目的意識をもってROM測定に臨みましょう。
ROM測定時にチェックされるポイント②「測定機器の扱いに慣れているか?」
ROMを測定する機器の代表格「ゴニオメーター」
この測定機器の扱いには慣れておきましょう。
もたついていると、練習不足だというレッテルを貼られかねません。
せめて移動軸を片手でさっと動かせることができるようになっておきましょうね。
扱いに慣れることで、患者様の負担軽減、測定時間の短縮、正確性の向上にもつながりますからね。
また、東大式ゴニオメーターや神中式ゴニオメーターは金属製のため、患者様の肌に直接触れないように配慮する必要があります。
「冷たい・痛い・気になる」そう思った瞬間身体はこわばり、正確な可動域は得られないでしょう。
ランドマークとゴニオの間に自分の指先を入れて測定するなどの配慮をしておくとよいですね。
ROM測定時にチェックされるポイント③「インフォームドコンセント」
患者さまへの説明は必ず行いましょう。
インフォームドコンセントは医療人として”当たり前”となっているものです。
臨床に行っても必ず行うものですし、自分の身を守るためも必要になってきますので、これを重視する臨床教育者も多いです。
これからどんなことをするのか、それをすることでどんなメリット・デメリットがあるのかを提示しましょう。
その上で、測定をしてよいかの同意を得てください。
”見知らぬ人、増して学生という立場の人にいきなり何かをされる”という恐怖は計り知れません。
その不安を少しでも解消していただくためにも、インフォームドコンセントは重要な役割を果たします。
また、インフォームドコンセントを行う際は、医療に携わらない一般の方にも伝わるよう、難しい言葉はわかりやすく言い換えましょうね。
実習としては、そうした一言一句を臨床教育者が聞き、説明方法の改善案を提示してくれるでしょう。
インフォームドコンセントのようなものは他人から指摘されることで、改善していくものです。
積極的に言葉遣いや言葉のチョイスセンスなどのフィードバックを受けにいきましょう。
ROM測定時にチェックされるポイント④「基本肢位を守っているか?」
関節の可動域は肢位によって大きく値を変えてしまいます。
例えば足関節。
膝関節が屈曲位or伸展位なのかによって角度が変わることがありますよね。
同じように二関節筋がある関節は、基本的に全て肢位による影響を受けます。
なので、基本肢位は原則守るようにしましょう。
もし、基本肢位以外の別法で行う場合は、その旨を記載しておきましょうね。
ROM測定時にチェックされるポイント⑤「やさしい触れ方を心がけているか?」
実習生は緊張からか、手の指先までしっかりと力が入ってしまい、患者様の測定部位を握ってしまっている・指先が食い込んでいる場合をよく見かけます。
また、ランドマークを探す際も、指先で行ってしまい、「くすぐったい、痛い」などの感想を抱く患者様もいます。
そうなれば、患者様の身体はこわばったりするので、正確な評価ができているとは言いづらくなってしまいます。
なので、指先には適度な力を入れつつ、やさしく包み込むように、かつ、安定感も出せるように工夫していきましょう。
さらに、ROMを測定する際は関節運動学に基づいて関節を他動運動していきましょう。
正常でない関節運動を誘導してしまうと、痛みなどの炎症を促進することになります。
そして、その他動運動は患者様の脳で"正常"として自動運動に影響を与えてしまうことがあるのです(筋の再学習の応用です)。
特に疾患を抱えている方の身体は、こういったことに繊細に順応してしまうため、注意が必要です。
そのため、ROM測定時は各関節の関節運動学を押さえておくと、より正確で関節にもやさしい測定をすることができるでしょう。
ROM測定時にチェックされるポイント⑥「エンドフィールを感じているか?」
エンドフィールは可動域の最終域を決めるために必要不可欠なものです。
何をもって最終域なのか。それを他者へ伝えるためにもエンドフィールは用いられます。
また、制限因子を炙り出すための評価としても使用されています。
改善可能かどうかもこれで判断することができるため、セラピストは必ずエンドフィールを感じるようにしています。
これはROM測定時にできる、ROM測定とは別の評価なので、記載する際は混ざらないように気をつけてくださいね。
以下がエンドフィールの有名な分類です。
『Cyriaxの分類』
①骨性:硬い。弾力がない。痛みなし。
→正常な肘関節伸展で認められる。
②軟部組織接触性:弾力性あり。軟部組織(特に筋)が圧迫される衝突感。
→正常な肘・股・膝関節屈曲で認められる。
③軟部組織伸張性:弾力性があるが硬いバネ様。
→正常なSLR(下肢伸展挙上)、中手指節関節伸展で認められる。
④筋スパズム性:他動運動中に突然くる急な硬さ。痛みを伴うことが多い。
→正常では起こらない。
⑤弾性制止性:跳ね返る感覚。
→正常では起こらない。
⑥無抵抗性:構造的な抵抗感は無いが、対象者の恐怖感や痛みのために感じる抵抗。
→正常では起こらない。
教科書や参考書にも載っていますので、詳しくはそちらをご参照ください。
ROM測定時にチェックされるポイント⑦「評価にかける時間を気にしているか?」
セラピストにとって評価することはとっても大事なことです。
治療の方針を決めるためには必要不可欠なものですからね。
ただ、患者様としては評価をすることよりも、早く安楽になりたいと願う方もいらっしゃいます。
また、一度に介入できる時間も20分間であることも多く、評価にかける時間と治療にかける時間の配分が難しいのです。
今日は評価だけで終わりました、、、となってしまうと、患者様との関係性にも影響が出てきそうですよね。
なので、なるべく早く・正確な評価をする技術が求められます。
実習だから、、、
なんて言い訳は通用しません。
患者様にとっても貴重なリハビリの時間。
その配慮ができている必要がありますよ。
ROM測定時にチェックされるポイント⑧「測定結果を報告しているか?」
測定結果(考察は含めない)を患者様に伝えましょう。
よく測定結果を伝えていない学生さんがいますが、それは良くありません。
だれしも検査したら結果が気になりますよね?
そのアナウンスがあるかないかで次第であなたと患者様との関係性が変わっていきますからね。
また、臨床教育者にとっても、学生さんが測定した結果が気になります。
その値が妥当かどうかの判断をその場ですることもできるので、測定結果の報告はその場で、するように心がけましょう。
ROM測定時にチェックされるポイント⑨「バイタルに変動がないかチェックしているか?」
評価をすることは、時に身体への負担となります。
なので、比較的低負荷なROM測定とはいえ、バイタルの変動を認めることがあります。
特に痛みや疲れは顔の表情や呼吸数、身体のこわばりなどの変化として現れます。
しかし、学生さんは評価箇所に集中してしまい、全体を見ていなくて、気付くことが遅れてしまうこともしばしばみられます。
評価中はなるべく視野を広げて、測定するときのみ評価箇所に集中する…などの工夫をしていきましょう。
患者様の中には、バイタルが変動していても、気を遣って言葉に出さない方もいらっしゃいます。
些細な変化に気付いていくことで関係性も良い方に向きますから、ROM測定時は全体をみてバイタルサインの変動を確認しておきましょう。
ROM測定時にチェックされるポイント⑩「見た目を気にかけているか?」
評価をする際、どうしても患者様の衣服が乱れてしまうことがあります。
また、患者様の着る病衣が浴衣スタイルであることもあります。
すると、はだけることもありますので、注意が必要ですね。
そして、評価している側の見た目、つまりあなた自身の見た目も気にかけてください。
変な姿勢で評価していないか?
不安定な姿勢になっていないか?
礼儀のある姿勢になっているか?
患者様との距離感はどうか?
臨床の場では、他の患者様もいます。
セラピストは常に見られる立場でもありますから、自身の見た目にも配慮していきましょう。
以上、実習生さんがROM測定をする際に臨床教育者からチェックされるポイント10コでした。
これらを注意することで、臨床教育者からのフィードバックの質が上がるだけでなく、ROM測定の技術も上がります。
ぜひ、一つ一つ意識しながら、練習してみてください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
引き続き【リハぶっく】をお楽しみください。