どうも、長谷川元気です。
私は当サイト『リハぶっく』の管理人です。
現役病院勤務の理学療法士をしています。
当サイトは主に
・実習生のスキルアップ
・セラピストのキャリアアップ
を目的としたサイトです。
Web上の 《 おすすめ本 》 として、医療に携わるあなたのお役に立てるよう運営していきます。
よく更新しますので、【ブックマーク】や【ホーム画面に追加】をしてお楽しみいただければと思います。
はじめに
先日行われた実習生さんの症例報告会での出来事です。
「最終目標(ゴール)は歩行能力獲得です!」
むむ???????
これはおかしいぞ。
そう感じたので、情報を共有していきます。
もし、学生さんの中でこれが誤りである理由が分からない方がいたら、今すぐに考えを改めましょう。
動作獲得は最終目的ではない。ADLとIADLを知ろう。
まずはじめに、この学生さんが立てた目標は正しいとはいえません。
学生さんの症例報告の際にきかれる、典型的な考え不足の例です。
最終ゴールはその方の生活に着目しなければなりません。
そもそも、歩行ができることが目標となってしまった場合、
"歩行ができる" からどうなのか??
"歩行ができる" その先にはなにがあるのか??
なんのために"歩行ができる"ようになったのか??
”歩行ができる”ことでほかに”なにができる”ようになったのか??
を考えられていません。
歩行は「目的」ではありません。
あくまで「目的」を達成するための「移動手段」です。
"歩行ができる"ようになったから、
"お散歩に行ける"
"買い物に行ける"
"家での生活ができる"
歩行の先になにをみているか、このことを考えずリハビリを提供してしまう方が意外にも多いのです。
つまり、歩行能力獲得が最終では、”歩けても生活できない”可能性があるのです。
生活をするということは、ADL能力以外にもIADL能力が必要になります。
それらの項目を全て網羅して、初めて、対象者にリハビリテーションを提供できたと言えるのです。
ADL:日常生活動作のこと。
着替え、食事、移動、トイレ、整容・お風呂などを指す。
IADL:手段的日常生活動作のこと。
買い物、掃除、お金の管理、料理、公共交通手段を使うなど、ADLよりも高度な動作のことを指す。
最終目標はこれらADL、IADLを考慮して立てる必要があります。
そのため、上記の学生さんのように、ADLである「歩行」が最終目標となってしまうと、IADLのことは考えているのかな?と臨床のセラピストは疑問に感じてしまうのです。
ただ、特に急性期の病院では、長い間入院が出来ません。
そのため、動作能力が獲得できたら退院、、、といった場合も少なくありません。
しかし、そういった病院の方針も考慮しなければなりませんが、臨床の現場で働くどんなセラピストでも
「患者様は退院後、生活をしていく」
ということについて考慮した治療プログラムを組んでいます。
そうすることで、より具体的な目標設定を立てることができ、より内容の濃い個別リハビリが提供できてくるためです。
リハビリにおける最終目標の設定方法と手順
では、実際に臨床ではどのように、最終目標を設定しているのでしょうか。
ここではリハビリテーションを提供するにあたって、とても大切で、とても難しい最終目標(ゴール)設定について触れていきます。
リハビリテーションでは最終目標を、まず最初に決める必要があります。
そうすることで「何のためにリハビリテーションを行うのか」を明確にしていきます。
①Dr.や看護師さん、カルテなどから情報収集をする
Dr.や看護師さん、カルテなどからの疾患に関する情報やその他の周辺情報を得て、
患者様の健康状態などの個人情報や、
キーパーソンなどの患者様を取り巻く社会情報を把握します。
この時点で、最終目標の”理想”をある程度決めることができます。
退院先や疾患の状態、これまでの経過、元のADL、今のADL、認知機能、家族の介護力、経済力など
これらを考慮して、この患者様にとって”理想的な”最終目標はこうなんじゃないかな、、、という『仮説』をたくさん立てておきます。
もちろん、この際にDr.や看護師さんからも治療の見通しの情報を聞き出しておくことで、より明確に予後予測をしておく必要があります。
②患者様に会う(問診をする)
次に患者様の身体状況を把握するために、実際にお会いして問診をしていく中で、
先ほど挙げた”理想”の最終目標がどれだけ実現できるのかを評価していきます。
ここでは患者様からのHOPEを聞き出し、NEEDを考えていくことになります。
そのHOPEに対するNEEDが実現可能かどうかは、この時点では最終判断をすることはありません。
まだ、その方の身体能力を評価していないからです。
しかし、この時点でいくつかの”理想”の最終目標を選択肢から除外することはできそうですね。
③身体評価をする
患者様のHOPEからNEEDをもとに、身体能力や身体機能などを評価していきます。
ここでやっと、ご本人の身体状況(残存機能)を把握することになります。
他職種の方の評価やカルテからの情報だけでは把握できなかった能力や、リハビリテーション目線での能力の評価をしていくことで、”理想の”最終目標の中から”実現可能な”最終目標を絞り込んでいきます。
※評価実習ではこの時点で絞り込んだ最終目標を、レポートやレジュメに掲載する最終目標とすることになります。
④治療とともに”実現可能な”最終目標を再評価していく
ここからは臨床実習の学生さん向けの流れになります。
現時点での身体能力を把握した上で、今度は治療へと移っていきます。
リハビリテーションの治療の流れを再確認すると、、、
・身体評価した結果を統合し、身体機能改善のための仮説を立てます。
・その後、その仮説に基づいて治療を提供し、仮説の正誤を評価して確かめます。
・そしてその結果を統合し、また仮説を立てていく。
・それに基づき治療をして。。。
という感じになりますよね。
この流れを繰り返していく中で、掲げた最終目標に到達できそうかどうかも同時に検証・再評価していきます。
また、リハビリの治療だけでなく、Dr.の治療や患者様を取り巻く環境設定の進行具合によって、”理想”の最終ゴールを達成できそうか短期・長期目標を適宜評価していきます。
このような流れで、最終目標は立てられています。
イメージはできたでしょうか??
この流れはベテランの先生方でも、新人の先生方でも皆同じように頭の中では考えられています。
学生さんもこの流れをイメージしながら最終目標を立ててみてください。
目標設定の大切さ・難しさについて
学生さんの症例報告の中でよく指摘されている「目標設定」。
なぜこんなにもよく指摘を受けるのでしょうか。
それは、あなたの立てた目標設定によって、治療の内容も変わるだけでなく、患者様の人生をも変えてしまうからです。
あなたが「走れない」と評価し、最終目標から「スポーツ復帰」の選択肢を除外してしまえば、もしかしたら、その方の選手生命が終わるかもしれない。
あなたが「歩けない」と評価し、最終目標から「犬の散歩をする」の選択肢を除外してしまえば、もしかしたら、犬の元気もなくなってしまうかもしれない。
あなたの評価ひとつ、目標設定ひとつで患者様の人生が大きく変わってしまいます。
その方がいくら望んでいたとしても、あなたの判断でその方の今後が決まってしまうのです。
あなたの人生が他人の評価で決まると考えるだけでも、おそろしく思いませんか?
リハビリテーションってそんな責務を抱えている仕事なのです。
「他人の人生を変えかねない」その重責に耐える覚悟がありますか?
その抱えきれない責任の中で、我々は目標設定をし、治療に励んでいるのです。
これは脅しでもなんでもありません。
現役のセラピストはこの重責に立ち向かって、臨床の場に立っています。
最後に
患者様の能力を、最大限に引き出せず終えてしまうリハビリ。
高望みしすぎて、逆に患者様に負担をかけてしまっているリハビリ。
そして、
目標を達成しても、生活に反映されないリハビリ。
どれも目標設定を誤ってしまった例です。
上二つの例は患者様の能力を見誤っているために起こる誤りです。
これに関してはかなり経験則もあるため、経験を積むに当たって、大きく見誤ることも少なくなってきます。
しかし、人間相手のリハビリであるため、見立てとは大きく異なることもしばしばです。
短期ゴール・長期ゴールを細く何度も修正することで、最終の目標設定をより現実的なものにすることができます。
最も注意しなければならないのが、三つ目の誤りです。
実習生が陥りやすい誤りなので、注意してくださいね。
今回はこの三つ目の誤りについて掘り下げながら、最終目標の設定方法についてまとめました。
ぜひ何度も読み直して、自分のものにしてみてくださいね。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
引き続き『リハぶっく』をお楽しみください。