見学中、「足枕」に着目してみよう
「足枕」
あなたはどのように利用されているのかご存知でしょうか?
一般的に言われていることとして、「むくみ予防」を目的として用いられることが多いですよね。
しかし、医療の世界ではむくみ予防のためだけに使うことはありません。
何気なく置かれている足枕には、とても大切な役割・目的があるのです。
学生さんは実習中の見学の際に、なぜそこに足枕が用いられているのか?ということを疑問に思えるようになりましょう。
そのために、知っておくべき知識を今回は共有していきます。
各目的別の足枕の置き方
足枕は設置する場所によって、身体へ大きな影響をもたらします。
つまり、足枕は使用する目的によって、設置する場所が異なるのです。
今回は目的ごとに、どこへ設置すべきなのか触れていきます。
今回取り上げる目的
・むくみ予防
・腰痛予防
・膝痛予防
・褥瘡予防
・姿勢(アライメント)と筋緊張の評価
はじめにまとめておきます!
目的 | 足枕の位置 |
むくみ予防 | ふくらはぎ~足部 |
腰痛予防 | お尻~ふくらはぎ |
膝痛予防 | お尻~ふくらはぎ |
褥瘡予防 | 人それぞれ |
姿勢(アライメント)と筋緊張の評価 | 人それぞれ |
むくみ予防
足枕の位置
むくみ予防のための足枕の位置は、
”ふくらはぎ~足首”
に置きます。
足枕の効果
これは、下腿の位置を心臓よりも高い位置へ上げることで、血液やリンパ液の還流量を増加させることができるからです。
”足がむくむ”原理としては、下腿の筋ポンプ作用が低下し、血液・リンパ液が還流できなくなってしまうことです。
足がむくむ原因
足がむくむ原因として
・そもそもの筋力量不足(女性に多い)
・筋力低下(ねたきりになると出現しやすい)
・心肺機能低下
・肝機能低下
などが主な原因として挙げられています。
詳しくはタケダ(アリナミンなどでもお馴染み)の会社が運営する『タケダ健康サイト』より「むくみ(https://takeda-kenko.jp/navi/navi.php?key=mukumi_zenshin)」をご参照ください。
むくみの症状
足がむくんでしまうと、
・痛み
・感覚低下
・筋出力低下
・倦怠感
などの症状がみられます。
むくみの対策
これを予防するための対策として、病院では足枕がよく用いられるのです。
他にも運動やマッサージ、弾性包帯、服薬など、原因によって様々な対策法があります。
そのなかでも足枕は、比較的簡易的に、そして手軽にできる対策なのです。
ただし、心肺機能が悪い時などは過度にむくみを軽減させようとしてしまうと、それこそ心肺機能へのダメージにつながってしまいます。
むくんでいる=足枕などで対策
と思考が停止する前に、血液・リンパ液の還流を促すことによるメリットだけでなく、上記のようなデメリットもしっかりと把握しておきましょう。
かといって、むくみ続けている状況はあまり良いものではありません。
デメリットによる影響も考慮しなければなりませんが、絶対禁忌なのか相対禁忌なのかという区別、つまり《許容範囲》もあることも覚えておいてください。
「これくらいのむくみ対策なら、身体への負荷は少ないと考えられる。」
そこの判断に迷ったら、医師や心肺機能の検査データの確認をしましょう。
腰痛予防
足枕の位置
腰痛予防のための足枕の位置は、
”お尻~ふともも”
に置くようにして下さい。
専門的に言うと、骨盤にある坐骨に足枕の端が少しかかるような位置へ置くと良いでしょう。
足枕の効果
足枕をお尻~ふとももに設置することで、股関節の屈曲が促され、それに伴い骨盤の過剰な前傾が軽減されます。
腰痛の原因
腰痛の原因としてよく挙げられるのが、骨盤の過前傾(反り腰)と過後傾(猫背・円背)です。
これにより、脊柱にある神経の圧迫や腰部筋の過収縮・過伸長などが引き起こるために腰痛がみられるといわれています。
◎”反り腰” ”骨盤が過前傾位”になりやすい方の特徴
反り腰は基本的に腰背部筋、下肢筋の筋緊張亢進により促されます。
・下腿後面の筋の伸張性低下がある(身体が固い)
・股関節の伸展制限がある(股関節を後ろへ伸ばせない)
・ひざ関節の伸展制限がある(ひざが伸びない)
・長期臥床している(ねたきり)
・麻痺がある
◎”円背” ”骨盤が過後傾位”になりやすい方の特徴
円背は基本的に全身の機能低下によるものが多い傾向にあります。
・高齢である
・全身(特に腰背部筋)の筋力低下がみられる
・脊柱圧迫骨折が既往にある
・バランス能力の低下がある
詳しくは文献「体幹と理学療法(https://www.jstage.jst.go.jp/article/ptcse/20/1/20_7/_pdf)」をご参照ください。
腰痛の症状
腰痛になると、身体を動かすことが億劫になってしまいます。
人間が動くときには体幹機能がとても重要な役割を担っています。
その体幹に含まれる腰部に痛みが出てしまうと、動作全般に影響を及ぼしてしまうのです。
歩く、ものを運ぶ、座る、寝る、話す、息をする
これらすべての動作に腰痛は影響してくるのです。
また、腰痛があることで、精神的にも「動きたくない」気持ちが強くなります。
しかし、ある時期を過ぎても動かなければ、腰痛はひどくなる一方なのです。
とはいえ、『痛い』という感情は、人間にとっては危険信号です。
そのため、その危険信号を受け取った人間は、自己防衛をします。
その自己防衛こそが《安静》、つまり《動かない》という選択肢につながっていきます。
この一連の流れをみると、痛みは精神的にも大きな影響をもたらすことがわかると思います。
この連鎖が続くことで、さらなる腰痛悪化が容易に想像でき、腰痛が慢性化していくのです。
腰痛の対策
腰痛を軽減するために足枕は大変有効なものです。
反り腰の強い方は、背臥位・座位・立位どんな時でも骨盤の過前傾がみられています。
そのため、背臥位姿勢のときに胸腰部が宙に浮いているような状態になりやすくなります。
宙に浮いているということは、筋収縮が持続的に行われている可能性が大いに考えられます。
つまり、安静肢位であるはずの背臥位が緊張状態にあるといえるのです。
そこで、足枕を用いることで、接地面積が増え、緊張状態が軽減されるのです。
逆に円背が強い方は背臥位・座位・立位どんな時でも骨盤の過後傾がみられています。
そのため、背臥位姿勢のとき、下肢が宙に浮いた状態になりやすくなります。
以下の表からもわかるように、両下肢の重さは体幹の重さよりも軽いのですが、腰椎の可動性が大きいため、下肢の重さによって腰椎への伸展ストレスがかかりやすくなります。
部位 | 体重に対する比率 |
頭部 | 8% |
上肢 | 12% |
体幹 | 45% |
下肢 | 35% |
(身体の部位別質量比)
つまり、円背姿勢の方も、やはり背臥位姿勢が緊張状態にあるといえるのです。
そこで、足枕を用いることで、腰椎にかかる伸展ストレスが軽減し、緊張状態を軽減できるのです。
足枕を用いることで、背臥位姿勢のアライメントが変わり、緊張状態が軽減されます。
ということは、リハ中に身体の筋緊張をニュートラルにしたい(過緊張状態をなくしたい)ときに、足枕は大活躍するのです。
セラピストが徒手的に調整するよりも効果が高いこともありますので、活用してみましょう。
膝痛予防
足枕の位置
膝痛予防のための足枕の位置は、腰痛予防と同様に
”お尻の下〜ふともも”
に置くようにしてください。
足枕の効果
足枕をもちいることで、膝にかかる重力、つまり膝関節伸展方向へのストレスを軽減することができます。
膝痛の原因
背臥位姿勢のとき、膝関節は骨盤~足部にかけてのアーチの頂点となることが多いため、足枕のない状態では膝関節伸展方向へのストレスを受けやすい状態となっています。
もともと、膝関節伸展制限がある方にとって、伸展方向へのストレスがかかることは膝痛の原因となります。
膝痛の症状
腰痛同様、身体を動かすことが億劫になってしまいます。
人の移動手段である「歩き」。
これはできて当たり前の動作の一つですが、膝の痛みがあることでこれに至るまでのハードルが一気に高くなります。
また、腰痛同様、持続的な痛みは精神的にも負担となります。
膝痛の対策
腰痛同様、膝痛を軽減するために足枕は大変有効なものです。
人によっては、膝窩の周囲に置く場合もありますが、その際は動静脈・神経の狭窄に注意してください。
褥瘡予防
足枕の位置
これはひとそれぞれ異なります。
一般的に圧がかかりやすいパーツ(以下に図あり)の周囲に設置します。
その他、痩せている方であれば、骨が突出している部分にあてがいましょう。
また、発生してしまった場合は褥瘡発生場所によって異なります。
足枕の効果
身体のパーツにかかる圧を軽減(除圧)することができます。
褥瘡の原因
褥瘡は何らかの原因によって、血流障害が起こり、細胞への酸素供給が滞ることで細胞が壊死してしまうことで引き起こります。
特にベッド上で背臥位となっている場合、全身に均一に圧がかかっていません。
この表のように圧が集中してしまうところは褥瘡の好発部位です。
褥瘡の原因、症状、対策について詳しくは、日本褥瘡学会のHP(http://www.jspu.org/jpn/patient/about.html)をご参照ください。
姿勢(アライメント)と筋緊張の評価
足枕の効果
骨盤や下肢の位置を足枕で調節・固定することにより、Bed up座位時の体幹や姿勢の安定にどう影響していくのかを評価します。
姿勢調整をして、仮に安定するようであれば、足枕で調節した部分に介入すれば座位姿勢の改善がみられるかも。。。という仮説も立てることができます。
また、座位・背臥位姿勢のときの筋緊張の評価にも用いられます。
足枕を使用することで、ベッドと身体の接地する面積が増えます。
これにより全身の筋緊張が落ちる、要はリラックスした状態を作れるといった効果があります。
リラックスした状態というのは、その方が本来持っている人間の力を引き出しやすくなっている状態とイコールなのです。
リハビリやBed上ADLを行なう際に、その方本来のパフォーマンスを発揮できる環境にないと、患者様の負担を増やしてしまうことになります。
患者様がリラックスした状態かどうかは、リハビリの人間にとっては最も神経を費やしていることの一つと位置づけられています。
まとめ
このように、足枕の位置一つで患者様の状態が変わるため、足枕を用いているセラピストはたくさんいます。
実習の見学中に足枕を使用しているセラピストがいたら、なんのために用いているのか聞いてみるのも面白いかと思います。
上記に挙げた理由だけでなく、様々な理由があると思います。
それら一つ一つの理由と知識をしっかりと自分のものにして、臨床で生かせるようにしていきましょう。
以上になります。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
引き続き『リハぶっく』をお楽しみください。