『自分』という言葉の使い方が間違いだった?!
「長谷川くんは『自分』という言葉の使い方に気をつけたほうがいいね。患者様が混乱してしまっているよ。」
私が実習生だった頃、当時のバイザーさんからこう指摘されたことがあります。
当時はなんの気なしに使っていた『自分』という言葉。
それが、特にご高齢の患者様にとっては混乱の種になっていた。
このことを指導された時は、とても衝撃を受けた思い出があります。
実習生のする会話の中で、
・「自分、実習生の○○と申します。見学させていただきますので、よろしくお願いします!」
・「自分、○○県が出身です!」
といった感じで『自分』という言葉はよく使われています。
特に体育会系の部活動をしていた方は、この使い方が当たり前ですよね。
でも、この場合の『自分』という言葉の使い方は、間違いではありませんが、極力避けた方が良いと言われています。
ということで、今回は『自分』という言葉の正しい使い方についてまとめていきます。

日本語には一人称がたくさんある
一人称とは
人称のことで、話して自身のことを指す。自称とも呼ぶ。
Wikipediaより
あなたは、会話の中で一人称をどのように用いているでしょうか?
私?僕?おれ?自分??はたまた…うち???
中にはあなた自身のお名前を用いている方もいらっしゃいますね。
英語では一人称が [ I ] か [ We ]の二つしかありません。
しかし日本語は、上記に挙げたように複数の表現の仕方があります。
そして、さらにやっかいなことに日本語の場合、日常生活では一人称を省略しても会話が成り立つことのほうが多いのです。
日本語では、、、「今日も(私は)元気ですよ!」
英語では、、、 「I am fine today as well!」
このように、日本語では”私は”という一人称を使わなくても意味が通じますよね。
しかし、リハビリを行う上ではそうはいきません。
というのも、患者様に動作を指導することが多いからです。
指導をするときには主語がはっきりしていないと、 ”誰が” 何をするのか曖昧になってしまい、患者様を混乱させてしまう可能性があります。
それゆえ、セラピストと患者様の会話を聞いていると、日常では比較にならないほど一人称が頻回に使われている印象があります。
体育会系のスポーツ分野では当たり前に用いられる『自分』
リハビリに携わる人間の多くは、体育会系の運動部に所属していたことがあると思います。
私自身もメジャースポーツであるサッカーを含め、体育会系のスポーツにはいくつも手を出してきました。
そこで私も含めみんなが主に使っていた一人称は、
『自分』 です。
もちろん、誰に矯正されたわけではなく、周りのチームメイトや諸先輩方の皆が『自分』を違和感なく用いていました。
プロのスポーツ選手の中にもインタビューを聞いていても、この『自分』を一人称として用いていることが多いですね。
私がそのころ勝手に抱いていた一人称のイメージとしては
「私」や「僕」だと、なにか優しすぎて、弱そうに聞こえるなぁ…
かといって、「俺」だと、とても偉そう!
男だし、さすがに名前を言うのはちょっと・・・
「自分」ならなんか、かっこつくかも!
こんな感じにしか考えていませんでした。
他の方がどう想って「自分」と言っていたのかはわかりません。
しかし、硬派なイメージが強い「自分」は、現在でも体育会系のスポーツを行なっている方々の支持を集めているようです。
そういった経緯から、体育会系のスポーツを経験して、リハビリの世界へ入ってきた学生さんの中には、一人称を『自分』と習慣的にしている方が多く見受けられます。
『自分』は二人称で用いることもある
二人称とは
人称のことで、受け手(聞き手や読み手)のことを指す。対称とも呼ぶ。
Wikipediaより
ただ、この『自分』という表現は、一般的に好まれていない表現であるということを知っておきましょう。
というのも、『自分』は上に挙げたような一人称としての使い方だけでなく、関西の方で”二人称”として用いることがあるからです。
「自分、どこの出身なん?」
「なぁなぁ、自分はこれどう思う?」
関西出身ではないため、正しい関西弁かどうかは定かではありませんが、こんな感じで”自分=あなた”の意味で用いられているのです。
最近では関西だけでなく、全国各地で二人称として使うことも増えてきていると言われています。
これでは相手方にとっては、一人称で用いてるのか、二人称で用いてるのか、判断が難しい会話が出てきてしまいます。
特にご高齢の方と接するときは、認知機能の低下されている方も少なくありません。
その中には、理解力が低下し判断が遅れてしまっている。。。
といった患者様が臨床ではよく見受けられます。
そのような方が、『自分』という言葉の判別ができずに、混乱してしまう可能性が大いにあるのです。
例えば、
"側臥位で股関節の伸展運動の指導中、
セラピストが「脚を自分の方へ動かして下さい」とアナウンスすると、
患者様は股関節の屈曲運動を行ってしまった。"
この場合、セラピスト目線では「自分」を一人称として「私」、つまり股関節伸展方向(セラピストの方)へ…という意味で使われていたが、
患者様の目線では二人称として「あなた」、つまり股関節屈曲方向(患者様の方)へ…という意味で解釈されていたと考えられます。
文化庁の提示する『自分』の使い方
じゃあ、『自分』の正しい使い方とはいったいなんなの?
ということで、文化庁のサイトで調べてみました!
そこでは。。。
(文化庁 これからの敬語より抜粋)
このように「自分」を一人称で用いることを避けるようにと、明記してありました。
つまり!
明日から患者様と接するときの一人称は、
「私」や「僕」にしておくのが良さそうですね!
まとめ
最近では言葉遣いの乱れがよく指摘されています。
特に若者が使う言葉とご高齢の方が使う言葉では、言葉自体は変わってなくても、意味に大きな差が生じている場合もあります。
セラピストは老若男女、いろいろな世代の方と接する機会があります。
そのとき、今回取り上げた『自分』のように、言葉の使い方1つで混乱を招く可能性もあります。
万人に通じる、きちんとした正しい日本語を用いることで、より効果的な治療を提供できるようになれるといいですね!

最後まで読んでいただきありがとうございました!
引き続き、『リハぶっく』をお楽しみください。