理学療法士の存在が”障害”となることがある
今回の記事は学生さんにとって最初は疑問しか感じないものかもしれません。
ですが、最後まで読めば理解が深まると思いますので、ぜひ最後まで楽しんでいただけたらと思います。
ではでは、本文に入っていきます。
入職当初、私の上司から言われた言葉があります。
「理学療法士が”障害”となることがある。」

当時は訳がわかりませんでした。
だって理学療法士は障害を抱えた方を対象に、障害との向き合い方や乗り越え方を提供する仕事のはずです。

そう思っていました。
しかし、実際に理学療法士として働いてみて、自分が障害となってしまったと思う瞬間を経験をすることがありました。
理学療法士が障害となるとき、それは、『理学療法士が患者様の限界を見誤ってしまったとき』です。
この時、理学療法士は患者様にとって”障害”でしかありません。
理学療法士さえいなければ、理学療法士に出会っていなければ、もっと良い生活をすることができたことでしょう。
もっと笑顔を見せることができたでしょう。
矛盾に思えるかもしれませんが、理学療法士のせいで患者様が悪くなることもあるのです。
そうならないためにも、患者様の限界を見誤らないようにしっかりと評価をしていきましょう。
評価の重要性を知る
理学療法士は治療をするためにROM、MMT、疼痛、姿勢観察、ADL観察、、、などのすべての評価項目において、"患者様の持てる最大の能力"を評価しなければなりません。
言い換えれば、この評価というものは『患者様の限界』を決める大事なものなのです。
この『患者様の限界』を推し量ることで、今取り組むべき課題が浮き彫りになります。
その課題を乗り越えていくことで、最終的に本人や家族と医師が決めた目標へと到達することになるのです。
では、この評価をするのは誰でしょうか。
理学療法士である”あなた”ですよね。
あなたの責任で『患者様の限界』を決めることになります。
あなたが『患者様の限界』を決めるのです。
例を挙げてみると分かりやすいかもしれませんね。
日常でよくある話で例えてみましょう。
日常的に起こりうる周囲の人が”障害”となる例
「もうお腹がいっぱい」と食べ残しをしてしまう人がいたとします。
もし、あなたがその言葉を信じて、『この方のご飯を食べられる限界はこれだけである』と評価したとしましょう。
しかし、その方、本当はもっといっぱい食べれる容量が残っていた。
ただの好き嫌いだった。
そのために嘘をついて「お腹がいっぱい」と言っていた。
この時、あなたはこの方の限界を見誤ってしまっていますよね。
もし、そのご飯を食べきらなかったことが原因で、栄養不足となってしまったらどうしますか?
栄養不足となり風邪の治りにくくなったり、体力の低下もみられてしまったらどうですか?
あなたはその方にとって"障害"ですよね。
理学療法士が”障害”となる例
では、理学療法士で例えてみます。
あなたが患者様の歩行能力を「20m歩けるレベル」と評価したとします。
しかし、本当はその方は500m以上歩ける能力を持っていた。
ただ、長距離を歩く必要性を感じていなかった。
そのために20mで歩くのをやめてしまった。
この時、あなたはこの方の限界を見誤ってしまっていますよね。
もし、入院中にその距離しか歩かない日が続いて、体力が低下してしまったらどうしますか?
もし、体力が低下したことで自宅復帰できなくなってしまったらどうしますか?
あなたはその患者様にとって"障害"ですよね。
これが理学療法士が"障害"となってしまった例です。
このようなことは日常的によく起こりうる可能性があることがわかりますか?
歩きたくなくなってしまった理由はいくらでもありますよね。
例えば、ただ同じ場所を歩くのに飽きてきていた。
ただあなたと話しながら歩くのが苦痛だった。
ただ早くリハビリを終えてテレビを観たかった。
ただなんとなく疲れたと言えば終わってくれるから疲れたと言ってみた。
なんとなく痛くなりそそうだからやめたかった…などなど
人は辛いことに対して、逃れる理由(いいわけとも言う)を作るのがうまい生き物です。
どうにかして楽して生きたい。
わざわざ辛いことなんかしたくない。
短期的な視点で考えたときの心理状態としては、新しいことを始める負担よりも、これまでどおりに安定していることを選択しがちになります。
そこをしっかりと分けて評価していかないと、限界を見誤ってしまい、結果として中・長期的には”損”となってしまうのです。
理学療法士の実習生さんが”障害”となる例①
では最後に学生さんがよく実習中に陥ることのある”障害”の例を2つ提示してみましょう。
あなたが患者様の股関節屈曲のROM-Tを「30°」と評価したとします。
しかし、本当はその方は90°まで屈曲する能力を持っていた。
ただ、学生さんが動かすことに慎重になりすぎて、患者様も緊張し、力が入ってしまった。
学生さんはそこがエンドフィールだと評価し、30°と測定。
股関節屈曲に制限ありと解釈してしまった。
この時、あなたはこの方の限界を見誤ってしまっていますよね。
もし本当にこの角度であれば車椅子にも乗れませんし、ベッドでご飯を食べることもきつい姿勢で食べることになります。
もし、そのまま関節可動域が医療者によって制限され続けたことによって、本当に拘縮してしまったらどうしますか?
もし、拘縮したことで歩けなくなってしまったらどうしますか?
あなたはその患者様にとって"障害"ですよね。
理学療法士の実習生さんが”障害”となる例②
あなたが患者様の立ち上がり軽介助レベルの原因を「体幹の前傾不足」と評価したとします。
しかし、本当はその方は体幹を前傾する能力があり、自力で立って、さらに車椅子に乗って操作できる能力もあった。
ただ、何かあった時に支えられるようにと配慮してくれた学生さんの立ち位置が邪魔で、思うように前傾できなかった。
そのためうまく力が入らず、立ち上がることができなかった。
この時、あなたはこの方の限界を見誤ってしまっていますよね。
もし、病棟看護師との連携でトイレ誘導をする際、この方は看護師さんが手伝わないと立てないと報告することになります。
となると、患者様はナースコールで看護師さんを呼んでからでないと、トイレに行くことができなくなってしまいます。
それは患者様にとってQOLが下がることになりますし、看護師さんにとっても仕事量が増えてしまうことになります。
あなたの評価で、誰も得をしないという事態に陥るのです。
つまり、あなたはその患者様にとって"障害"ですよね。
ここまでくればなんとなく理解できてきましたか?
『評価する』ということは『人の限界を決める』ということでもあり、『人を制限する』ことにも繋がるのです。
だからこそ、理学療法士は評価を大切にし、慎重に行っていくのです。
この評価を見誤ることで、治療内容も、患者様のADLもQOLも予後も、患者様をサポートする方々のQOLも、、、
すべての循環が悪くなります。
あなたの評価次第で、すべてが変わってくるのです。

評価を見誤らないためにできる対策とは?
では、その評価を見誤らないために、理学療法士が行っている対策とは一体どういったものなのでしょうか。
それは、『情報収集をしている』というものです。
理学療法士は自身の評価を見誤らないために行っている対策として、情報収集にとても気を遣っています。
患者様と対面する前には、カルテや医師、看護師さんなどから”他職種から見た患者様”をよく聞いておきます。
入院前はどんな生活をしていたのか、今はどんな病態なのか、今のADLはどうなのか、予後予測はどうなっているのか、今後の予定はどうなっているのか、、、
概ね、これらから集まる情報で患者様に対面する前に患者様の限界を推し量ることができます。
こうして事前に集めた情報を心の中に秘めておき、実際に患者様に対面をするのです。
そこで、実際にあなたが評価することで、それらの情報を精査していきます。
こうして、自身の評価をなるべく見誤らないための対策をしているのです。
つまり、この『リハぶっく』では何度も言っているように、”事前準備”がここでも重要になってくるのです。
CCS(クリニカルクラークシップ)が導入されれば、見学-模倣-実践の順で実習が進むことになるため、実習生さんの進行具合によっては、患者様をいきなり評価するという機会が減る可能性もあります。
一回限界を知った上で動かすのと、限界を探すのとでは相当な差があります。
その際、臨床へ出てから、どうやったら患者様の限界を評価してよいのかわからないなんてことがないように、この対策方法を頭に入れておいてください。
実習中に少しでもそういった経験をしておきたいなら、実習が円滑に進むように、あなたが実習の事前準備をしっかりと行っておきましょう。
CCSとなれば、学生さんの頑張り次第で、進行度が変わっていきます。
もちろんそのサポートをするのが指導者(CCSでは臨床教育者と呼ばれることになる)ですが、そこにも限界があります。
お互いに協力して、患者様のためになることを提供できるようにしていきましょう。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
引き続き『リハぶっく』をお楽しみください。